脳室シャントは水頭症と呼ばれる脳内の髄液(脳脊髄液)の異常貯留を改善するために行われる代表的な治療法です。
高齢者の正常圧水頭症や外傷後の水頭症などでシャント術が施行された患者さんを担当する療法士も多いでしょう。
この記事では、シャントの基礎知識を臨床で注目すべき観察ポイントについて、 本記事では、脳室シャントの基礎からわかりやすく解説します。
🧠 シャント(Shunt)とは? ~水頭症とシャント術の基礎~
シャント術は、過剰な髄液を脳室から体内の他の空間へ逃がし、髄液循環を維持するための外科的処置であり、具体的には脳内の拡大した脳室に細いシリコン製の管(カテーテル)を挿入し、皮下を通して腹腔などへ導いて余分な髄液を排出します。これにより脳室内の圧力を下げ、水頭症による脳機能への悪影響を防ぎます。
シャントには逆流防止や圧力調整機能を持つバルブが組み込まれており、髄液圧が一定以上になるとバルブが開いて液を排出し、圧が下がると閉じるという一方向の流れを作ります。このようにして脳室内の髄液量・圧力を適切にコントロールし、過剰な貯留を防ぐのがシャントシステムの役割です。
補足:
水頭症とは?
脳や脊髄を満たす髄液の循環障害によって頭蓋内に過剰な髄液がたまり、脳室が拡大して脳を圧迫する状態を「水頭症」と呼びます。原因は様々で、くも膜下出血・脳出血などの脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、髄膜炎、先天奇形、原因不明の特発性正常圧水頭症(iNPH)などが挙げられます。
特に高齢者では正常圧水頭症が有名で、歩行障害・認知症状・尿失禁の「三徴」が現れることがあります。
一方、小児では脳腫瘍や中脳水道の閉塞による非交通性水頭症が多く、急激に進行すると激しい頭痛や嘔吐、意識低下など高い頭蓋内圧の症状を呈します。
シャント術の目的: 余分な髄液を体内の他の場所に逃し、脳室内の圧力を下げること。これにより脳への圧迫を軽減し、症状の改善を図ります。
シャントの種類と流れの仕組み
主なシャント術の種類
シャントには
脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)
脳室-心房シャント(V-Aシャント)
腰椎-腹腔シャント(L-Pシャント)
などがあります。
現在最も一般的なのはV-Pシャント(脳室-腹腔シャント)で、側脳室に留置したカテーテルを皮下トンネルを通して腹腔内まで繋ぎ、髄液を腹腔に排出します。
V-Aシャントは脳室から心臓の右心房までチューブをつなぐ方法で、かつて用いられましたが感染症(心内膜炎)のリスクなどから現在は頻度が減っています。
L-Pシャントは腰椎くも膜下腔から腹腔へ髄液を流す方法で、脳室にチューブを入れずに済むため正常圧水頭症では選択されることもあります。
いずれの方法でも体内に埋め込まれたシャントバルブが髄液の流量や流れる方向、圧力を自動調節しており、必要な分だけ余分な髄液を排出する仕組みになっています。最近では圧可変式のバルブも普及しており、皮膚越しに磁石で開放圧を調整してシャントの排液量を変更することも可能です(設定圧に影響する磁気製品の取扱いには注意が必要です)。
シャント術による効果: 水頭症患者では、シャント手術後に脳室内の余分な髄液が排出されると脳室のサイズが縮小し、脳表のくも膜下腔が正常に近づくことが知られています 。実際、正常圧水頭症(NPH)の例では、術後に歩行障害は約80%の患者で改善、認知症状も約70%で改善し、日常生活動作が向上したとの報告があります 。
つまり、適度な脳室縮小は脳圧の低下と症状改善のサインといえます。
シャント手術に伴う合併症
シャント術は水頭症に対する有効な治療ですが、留意すべき合併症も存在します。ここでは代表的なものを解説します。
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感染症: シャント系の感染は手術後早期から起こり得る重大な合併症です。創部の皮膚感染が波及して髄膜炎や脳室炎を発症し、シャントを抜去しなければならない場合があります。V-Pシャントでは腹腔内での感染(腹膜炎)、V-Aシャントでは心内膜炎を引き起こすリスクもあります。発熱、創部の発赤・疼痛、頭痛、痙攣発作、意識障害などの症状に注意が必要です。
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シャント機能不全(閉塞・脱出など): シャントチューブが詰まったり、抜けたり、折れ曲がったりしてうまく髄液が流れなくなることがあります。シャント閉塞は手術後数週~数年経てば約5%程度の患者で起こり得ると報告されています。シャントが機能不全に陥ると再び髄液が貯留してしまうため、頭痛や嘔吐、意識レベル低下、けいれん発作など頭蓋内圧亢進症状が再度現れます。画像検査(CTやX線シャント撮影)でチューブの閉塞や断裂が確認されれば、シャントシステムの交換・再手術が検討されます
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過剰ドレナージ(低髄圧症候群): シャントが働きすぎて髄液を排出し過ぎてしまうと、頭蓋内圧が低下して種々の問題を引き起こします。立ち上がったときに重力で髄液が過度に引き抜かれ、起立性頭痛(座位・立位で増悪し横になると軽快する頭痛)、悪心・嘔吐、めまいなどを呈する低髄液圧症候群が起こることがあります。症状が強い場合には一旦仰向けに寝て安静にすることで改善が期待できます。過剰ドレナージが急激に生じると脳室が虚脱する(極端に縮んでしまう)ことがあり、そうすると今度は脳と硬膜の間に隙間ができて硬膜下水腫(髄液が溜まる)や硬膜下血腫(出血が溜まる)を引き起こす可能性があります。
術後の注意点
患者の体位や活動によって頭痛・嘔気の出現、意識レベルの変化が見られたら要注意です。
これはこれはシャント不全や、過剰ドレナージのサインかもしれません。画像所見(脳室の大きさなど)だけで判断せず、症状の日内変動や臨床所見との整合を見ることが大切です。また、シャントバルブの圧設定によって症状が左右されるため、リハ職も主治医や看護師と情報共有し、適切なリハ介入を検討しましょう。
本日の内容はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。